テーマ 129 “アムンセンとスコットの南極点到達レース”から見る
“内発的動機と外発的動機”
■アムンセンとスコットの南極点到達レース
1911年、ノルウェーのアムンセン隊とイギリスのスコット隊が
前人未踏の地、南極点に向けて出発しました。
初到達を果たして無事帰還したのはアムンセン隊で、
スコット隊は全員遭難死しました。
ロワール・アムンセンは1872年にノルウェーに生まれました。
父親は海運業。
母親はアムンセンを医者にさせたがりましたが、
大学を中退し小さいころからの夢であった探検家を目指します。
アムンセンは幼少時より極点への一番乗りを夢見て、
その夢の実現のために努力を重ねていました。
下記の様なエピソードがあります。
・子供の頃、寒さに強い体をつくるために、
寒い冬に夜通し部屋の窓を開けっぱなしにして寝た。
・子供のころから犬ゾリ、スキー、キャンプなどの
技術や知識を実際の体験を通して繰り返し行い勉強する。
・探検隊長と船長の確執が、過去の探検失敗の
大きな原因であることを知り、船長の資格を自ら取得する。
南極点到達の探検に際しても、アムンセンは用意周到でした。
何年もの年数をかけ、自分自身でスキー、犬そりの訓練や
雪質の見極め方、天候の観察方法、人選などを徹底的に研究しました。
また、アムンセンは自分の考えを常に隊員に説明し共有しました。
部下を重要な人間として扱いその専門性を尊重しました。
アムンセンの目的は、幼少時からの極地探検への
憧れである南極点への一番乗りでした。
ロバート・スコットは1868年、イギリスの軍人エリートの家系に生まれ、
13歳で海軍兵学校に入学、15歳で士官候補生となります。
1888年、海軍大学を卒業。イギリス海軍の少佐となり、
軍隊でのさらなる出世を夢見ていました。
スコットは自分自身、北極や南極の探検の経験も
操船の経験もありませんでした。
隊員には、犬の扱いやスキーの操作もできる人間も少なく、
自分自身の経験不足もあり、リーダーシップを発揮できませんでした。
隊員には自由を与えず、自分が目立つことが重要でありました。
スコットの目的は、ミッションを完遂し高い評価と名誉を得て、
海軍内で出世をすることでした。
このレースの結果は、アムンセンの勝利に終わります。
アムンセン隊は、犬ゾリを使って1日に50キロを進むような
猛スピードであっという間に極点に到達し、スムーズに帰還しています。
一人の犠牲者を出すこともなく、隊員の健康状態はすこぶる良好でした。
スコット隊は、主力移動手段として期待して用意した動力ソリ、
馬がまったくに立たない状況になりましたが、
それでも、アムンセン隊より、1ヶ月遅れで南極点に到達しました。
しかし、隊員たちの衰弱はすさまじく、帰り道の途中、
ついに食料も燃料も尽きてスコット自身も含め全滅してしまいます。
■内発的動機と外発的動機
経営学上、モチベーションは次の2種類に分けられます。
1.内発的動機(intrinsic motivation)
純粋に「楽しみたい」「やりたい」といった、
内面から湧き上がるモチベーションのこと。
2.外発的動機(extrinsic motivation)
報酬・昇進など、「外部」から与えられる影響で
高まるモチベーションのこと。
これまでの経営学における実証研究によりますと、
「外発的動機よりも内発的動機の方が、
個人の行動へのコミットメントや持続性を高める」
ということが、ほとんどの学者の方のコンセンサスと
なっているとことです。
アムンセンとスコットの場合で考えると、
スコットは「上司から与えられた命令を完遂して評価され昇進したい」
という外発的動機であったのに対し、
アムンセンは、子供のころからの夢を実現させたいという
内発的動機に突き動かされていることが分かります。
また、内発的動機は、大きな力を発揮することも分かります。
■部下の内発的動機を育てるには、
長所、得意なことを伸ばすのが近道
部下育成の基本は、
「部下の短所は上司がフォローし、長所を伸ばす」です。
部下の方の短所をフォローするためには、丹念に仕事を教える、
何度も一緒にやってみるなどいろいろな援助が必要となりますが、
部下の長所、得意分野をみつけ伸ばすような、
仕事の指示を行うと必要最低限の援助だけで、
部下の方は自発的にやる気を持って、意欲的に取組みます。
自分が得意な仕事、好きな仕事は、
純粋に「楽しみたい」「やりたい」といった、
内面から湧き上がるモチベーションが湧くはずです。
管理職者は、一人ひとりの部下の方の長所、短所をよく把握し、
部下の方への仕事の与え方や仕事を行う環境を整えることが重要です。
また、部下の長所が良く分からないとか
部下の長所に合う仕事がないといった場合でも、
部下の方に目標や仕事を与えるときは、一方的な押し付けではなく、
部下の方の希望を踏まえながら上司として目標や行うべき仕事を示し、
部下の方と充分シュアし合い、部下の方が、納得して
目標や仕事に取り組んでもらうようにすることが重要となります。
また、目標を与えた後は、放置するのではなく、
部下の方の仕事の進捗管理を計画的にきちんと行うことが重要です。
仕事の能力アップのための指導や今行っている仕事の助言を行う中で、
一生懸命まじめに取り組んでいること自体や
仕事の結果を認め、ほめて上げることを繰り返すことが必要です。
上司のほめ言葉により、部下の方は、少しずつ心が変化してきます。
小さな心の変化の積み重ねが、
内面から湧き上がる大きなモチベーションへとつながります。
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